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イベントレポート | 「直す」で循環させるものづくり。これからのスタンダードとは? トークイベント「作り続けること、使い続けること」

技術を生かして、かたちにすること。ものづくりとは、なんとも幅の広い言葉だ。いつから、“新しいもの”を作ることばかりがフィーチャーされるようになったのだろう。

DIALOGUE 2023」のために京都へと足を運んだ。DIALOGUEは、「次の100年につなげていきたいものづくり」をテーマに、手仕事や伝統工芸などを扱う57の事業者による作品や商品が集まる催しで、毎回さまざまな作り手の想いに触れられる機会だ。なかでも今回は、2023年3月8日に開催されたトークイベント「作り続けること、使い続けること」をアーカイブしたい。

“使い続けること”。使い手の意思を育てるために

登壇したのは、アパレルブランド「MITTAN」のデザイナー・三谷 武氏、中川木工芸の三代目・中川 周士氏と哲学者の鞍田 崇氏という背景の異なる3名だ。民藝やものづくりに造詣の深い鞍田氏がナビゲーターとして意見を拾いあげ、まとめていった。

「ものづくりを続けていくには?という問いの先には、作り続けることと同様に、“使い続けること”の必要もあります。伝統工芸の作り手が感じている、実際このままでは続けられないのではないかという不安を払拭し、続けるための手がかりとなる場にしたい」と鞍田氏が話題を切り出した。

左から、中川木工芸の三代目・中川 周士氏、アパレルブランド「MITTAN」のデザイナー・三谷 武氏、哲学者の鞍田 崇氏

近年ファッション業界では、大量生産、大量破棄による環境問題が取り沙汰されている。ファストファッションへの疑問から生まれたブランド「MITTAN」のデザイナー・三谷氏が2013年から進めているのが、長く着るための提案だ。「服を直したところに刺繍などのデザインをほどこしています。穴が空いたところにワッペンを付けるでしょ、あれです。ただ元に戻すのではなく、新しい価値として付与しています。そうすることで、ユーザーの“着続けたい”という意思創発にもつなげられたら」と三谷氏は話す。

「MITTAN」が修正箇所に施している刺繍。写真提供:MITTAN

MITTANの服。服に付いたタグには、作った人の軌跡が分かるように、服がどこからきて今に至るかが明記されている。いわゆる服の履歴書。自分と服の中の繋がりができると、簡単に捨てない理由になるのではないかというアイデアだ

確かに昔、服はあまり捨てないものだった。着物なんかもまさにその流れに沿ったものだろう。祖母の着物が母親の手に渡り、袖や裾を直したり、色を染め直したりして、今は私に受け継がれている。次第に日本にあった文化が廃れてきていることを思い出した。三谷氏が行っているデザインは、古くなったものをもう一度新鮮な気持ちで使うための人間の知恵なのだ。

「使い手がいないと、作れません。作り続けられない社会を、自分たちで生み出してしまっているという悲しい状況にしたくないですよね」と鞍田氏の問いかけに対して、「ものを自分で直して、最終的に使う人が作る人になってもいいんですよ」という三谷氏が答える。作り手は使い手であり、その逆もしかりなのだ。作り手側だけが何とかしようと奮闘しても、状況は変わらない。需要と供給のバランスのように、両方の意識が共に育っていくことも必要なのだろう。

「リペア」ではない、新しく「直す」言葉と概念を

捨てるのではなく、直すという選択肢がある。
先に挙げた着物もしかり、欠けた陶器に施す金継ぎも、それ自体がデザインとなり唯一無二の美しさを生み出す直し方の事例だろう。この場合の「直す・修繕」とは、元に戻す復旧という意味以上に、ものを若返らせて、プラスアルファの状態にするという意味の方が適切そうだ。

言葉は概念をつくる。
「直す=リペアという言葉では足りない」という話題もあがった。そういえば建築界隈でも似たような議論をみたことがある。それは、元に戻す改修を意味する「リフォーム」から、より魅力的に改修するという意味の「リノベーション」という言葉が新しく定着したことだ。これによって新築物件だけでなく、中古住宅を魅力的に改修できるリノベーション物件という選択肢が増えた。いわゆる、建物の新しい“直し方”の提案だ。

新しい言葉が定着すれば、捨てる前に、直すを選ぶ人も増えるかもしれない。直したもののほうがかっこいいやん!となれば、そもそもものの選び方もガラッと変わるだろう。そうなると、次の時代につながるオルタナティブな可能性がどんどんとみえてくる。

「伝統工芸は時代遅れではない。むしろ最先端なのでは?と感じることも増えた」と中川氏。「伝統工芸品は、組み立てるものが多い。それは要するに直せるように作られているから。直し、って実は一番難しいこと。全ての工程が分かっていないと直せないから、熟練の職人が担っています」と続けた。室町時代頃から伝わる木桶の製作技法を用いて、おひつや寿司桶を制作する中川氏の言葉には説得力がある。壊れた部分だけ直す作業を繰り返せば、半永久的に使える。ちなみに、中川氏が手がけた木桶も、適切に使われていれば、直しながら100年先まで充分に使うことができる。

写真提供:dialogue

「500年前から桧の人工林施業が行われている奈良県の吉野村。ここでは100年先を見越して、計画的に木を育てることが当たり前なのです」と中川氏。100年、200年先、見えない未来を想定してものを作ること。先人にならえ、…とまでは断言できないが、世の中はめぐり巡る。作って、使って、直して、新しく生まれ変わったものをまた使う、この循環を回すことに、これからのものづくりのヒントがある気がした。職人の腕の見せ所はまだまだある。

 

<開催情報>
トークイベント「作り続けること、使い続けること」

日程|2023年3月8日(水)14:00-15:30
会場|THE KITCHEN KANRA(ホテル カンラ 京都 B2F)
登壇者|三谷 武(MITTAN)、中川 周士(中川木工芸)、鞍田 崇(明治大学理工学部准教授)
詳細|https://dialoguekyoto.com/wp/events/958/

WRITING
小倉 ちあき
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