TEKTON

越前のものづくりの現場を巡る!マテリアルツアーに参加して来ました

工房を制するもの、越前を制する。

 

福井県の北部に位置し、美しい自然環境と豊かな歴史文化が魅力の越前市。越前海岸では、新鮮な海の幸が豊富で、越前ガニを知らない人はいないだろう。それだけでなく、越前には、この地域の風土に根ざし、職人たちによって長年にわたり受け継がれてきた伝統産業が息づいている。

平安時代、朝廷が地方を司るための役所である「越前国府」が置かれていた。越中・越後まで連なる巨大な越の国の玄関口として、政治・文化・産業が行き交った。当時の最先端の文化や技術は、越前から日本各地へと運ばれていったのだ。

いざ!そんな越前の伝統産業を知るべく、福井県の一般社団法人越前市観光協会(以下、越前市観光協会)が企画する、マテリアルツアーが2024年8月26日に開催された。「千年未来工藝祭2024」の連動企画だ。

越前市観光協会では、越前叡智という尖ったオフィシャルサイトも公開している。越前を旅する際に覗いてみるととても役立ちそうなので、ぜひおすすめしたい。

ツアーは、タケフナイフビレッジからスタート。

©YOICHI NAIKI

この場所は、13社の刃物会社が集まる越前打刃物の共同工房。鍛冶や研ぎ職人、伝統工芸士の実際の作業風景を、見学することができる施設だ。1000度以上まで熱せられた炉の中で熱せられた鋼を、ハンマーで叩きながら完全に接着する「鋼付け」やベルトハンマーを使いながら鍛えあげる「先付け」、包丁を研ぐ仕上げ「荒研ぎ」などすべての工程を見ることができる。刃物を叩く音、削る音、機械が上下する音、さまざまな音の中で、若い職人たちが真摯に作業する風景は、いつまで見ていても飽きることがない。

©YOICHI NAIKI

越前の越前打刃物には、700年の歴史がある。近年では海外からも高い評価を受けている。併設するショップでは、まさに隣で作られた刃物を購入することができる。あれがこうなってこうなるのか……ともう感無量。

そのまま移動して、「越前和紙の里」にある、「紙祖神 岡太神社・大瀧神社」へ。

日本の紙業界の守り神である、紙祖神「川上御前」が祀られている、国の重要文化財指定の神社だ。この神社には5世紀末頃、岡太川の川上に美しい女性が現れ、紙漉きの技術を丁寧に教えたという伝説が残されている。農業よりも紙づくりを重んじてきた越前和紙の地域は、約1500年の歴史がある。

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紙漉きの技術を受け継ぐ和紙職人が仕事に励む「越前和紙の里」を訪れる際には、まずこの神様にご挨拶をしてからというのが、旅の鉄則なのだとか。

地元に愛されている場所で、神と紙のまつりとも呼ばれる5月の3、4、5日の「春祭り」。最終日に行われる「渡り神輿」は、神様を乗せた神輿が五箇地区の5つの集落を巡幸する。

©YOICHI NAIKI

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日本で一番複雑な木造建築とも呼ばれている大滝神社の社。苔のむした石畳や檜皮葺が美しく、神聖な雰囲気が漂っている。雨が降った後、屋根が一番綺麗だというので、天気が悪いときでもより楽しめそうだ。

そのまま、長田製作所さんへ。

1909年創業で襖紙など大型の和紙を専業としているのは越前和紙の中でもここだけだ。案内してくれたのは、4代目の長田和也さんを父に持つ娘の泉さん。「原料、水、粘りのあるネリを混ぜて、簀桁ですくって縦横にゆらし、一枚一枚漉いていきます」。手漉き和紙の工程を教えてくださった。一枚漉いてくださった後、滴たる雫の音が静かな工房に響いた。

©YOICHI NAIKI

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ちなみに、上記は泉さんの祖母がデザインしたという、山の稜線を描いたという和紙だ。金粉づかいが繊細。当時は表具屋さんが、見本帳を持って歩いてふすまの受注を行ってくれていたのだそう。時代はどこまでも移り変わり続けている。

 

そのまま徒歩10分ほどでRYOZO(柳瀬良三製紙さんへ到着。

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「くらしに溶け込む和紙」をモットーに手漉きの和紙製品をつくっている。お酒のラベルや和菓子の包装紙に使われる和紙も漉いており、透かしの技術はピカいち。越前市内だけでなく、全国の和菓子店の包装紙も取り扱っているそうだ。

「嫁をもらうなら紙漉き娘、仕事おはでで色白で。 紙の習いにご主人さんに、ご損かけたが忘らりょか〜♪ 」と地元に伝わる越前五箇の紙すきうたの歌詞にもある通り、当時、紙を漉くのは女性の仕事として、継承されていたのだそうだ。冬でも紙を漉くため、手を水に浸けて冷やし、手の感覚がなくなるほど冷たくてもそのまま漉き続けるという。なんとも職人魂を感じるエピソードだ。

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伝統工芸士の柳瀬京子さんに、難易度の高い紙漉きの様子を見せていただいた。「凛とした空気の中、紙を漉く女性の姿は美しい」と奥様の作業を見ながら、夫の柳瀬靖博さんは話す。半分冗談めいて話していたが、本音も混ざっているに違いない。

次は、越前箪笥の職人に会いに「小柳箪笥」へ。

桐箪笥やオーダー家具、建具といった、時代の変遷に則したものづくりを行っており、現在は、「kicoru」というオープンアトリエも開いている。削りや漆塗りなどを含む越前箪笥の全工程をこの工房で行っており、作業風景を間近で見学することもできる。

伝統工芸士の4代目・小柳範和さんは、アイデアマン。「こんなものがあったらいいな」を箪笥の技術を使って多くの商品を生み出してきた。スマートフォンを乗せるだけで使える木製スピーカーは、音楽ホールの音響空間をイメージしながら製作したのだそう。想像力に脱帽だ。

福井県鯖江市まで移動して、眼鏡の材料商社のKISSOへ。

©YOICHI NAIKI

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有名メガネブランドの多いイタリアメーカーから、メガネの部品となるアセテート、フレームを輸入し、加工販売している。またその部品を利用して自社のアクセサリーブランドを立ち上げた。

©YOICHI NAIKI

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アクセサリーにとどまらず、耳かきや玩具など、アセテートの可能性をさまざまに広げているKISSOさん。お話し上手な代表取締役の吉川精一さんのトークに、魅了されっぱなし。アセテートの色味の美しさは、光に当てた時に引き出される。現在考えているのは、不要になったアセテートのサンプルの再活用。新しい活用方法や提案ができそうな企業やクリエイターさん、新しい商品開発のきっかけになるかもしれない。

 

最後に訪れたのは、ataW

株式会社セキサカが運営するセレクトショップで、国内外のデザインプロダクトや日用品、洋服、家具を販売している。越前漆器の発祥の地・片山で、仏事用漆器店として創業してから、現代まで約300年間続いている。12代目の関坂達弘さんは、オリジナルプロダクトのディレクションにも携わっている。国内外のデザイナーと協業し、伝統的な漆器の製造技術を、新たな視点で再解釈し活用することで、 現代のライフスタイルを向上させる新しいプロダクトを生み出している。

©YOICHI NAIKI

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ギャラリーショップは、建築的にもユニークな仕掛けがたくさん。空間を七色に照らしてくれるエントランス扉は、「西陽を逆利用した」と関坂さん。アイデアはプロダクトだけでなく、空間の隅々にまで活かされていた。

今回マテリアルツアーで巡らせていただいた企業以外にも、越前には多くの企業がある。例えば和紙にまつわる企業といっても、和紙の道具を作る企業、撥水加工を行う企業、素材を作る企業、問屋など多岐に渡るのだ。ものができあがる経緯を知ることは、ものを選ぶ目利きの力が得られ、ものを大切にする意識にもつながるに違いない。

©YOICHI NAIKI

買い手はもちろんのこと、さまざまな異ジャンルの作り手も現地にぜひ訪れてほしい。アイデアが浮かび、新しいコラボレーションにつながるかもしれない。たくさんのヒントが、きっとものづくりの現場には眠っているはずだ。そう気づかせてくれるマテリアルツアーだった。越前はまだまだ奥深い。

開催概要

マテリアルツアー@千年未来工藝祭2024
日時:2024年8月26日(月)

取材/執筆
小倉 ちあき
撮影
YOICHI NAIKI
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