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イベントレポート | 年に一度の「千年未来工藝祭」で生まれる、ものづくりで共鳴しあう交流の場

越前に残る産業を、楽しみ、広げる

実際に手に触れる、目の前の職人と話す、それだけで一気に身近になる。一見敷居が高く感じられる伝統や文化でも、あるきっかけで、それが日常の延長にあると捉えられるようになる。ものと人をつなぐ「場」。福井県越前市で行われた「千年未来工藝祭」はまさにそんな場だったように思う。

2024年8月24日と25日に開催された「千年未来工藝祭2024」。作り手の技や製品、人柄に触れてもらい、工藝や手仕事を身近に感じながら、次世代への継承のきっかけづくりを目指すイベントだ。会場は、武生中央公園内にある越前市アイシンスポーツアリーナ。今年で7回目となり、主催のクラフトフェス実行員と共催の越前市が手を取り合って丁寧に育てている取り組みだ。

福井県越前市は、越前打刃物、越前和紙、越前箪笥、越前漆器などが地域産業として根付いている。この越前市と一般社団法人越前市観光協会は、2023年の「産業観光まちづくり大賞」で金賞を受賞している。もちろん「千年未来工藝祭」の取り組みも評価されて得られた、全国1位だ。さらに今年の「ジャパン・ツーリズム・アワード」では、一般社団法人越前市観光協会は、観光庁長官賞を受賞している。北陸新幹線の開通も重なって、ますます期待の高まっている越前市なのだ。

イベントを魅力的にするための仕掛けとは?

©HIRO YAMASHINA (記事内以下全て)

会場は大きく3つに分かれている。作り手や職人と触れられるクラフトマーケットエリア、と実際につくって体験できるワークショップエリア、そして地元のフードが楽しめる屋外のオアシスエリアだ。

まずクラフトマーケットエリアとワークショップエリアには、福井県はもとより、日本と海外の136組が出展していた。伝統工芸や手作りのクラフトなどが店頭に並んでいた。特徴的だったのが、会場内の明るさだ。たいていこういうクラフト市では、商品がよく見えるように、煌々とライトが付きがちだ。「これもものづくりが好きな人と作り手をつなげるための仕掛けのひとつ。出店者と来場者という関係性ではなく、作り手とゆっくり会話ができるような雰囲気を生み出しています」とイベントディレクターの内田裕規さん(株式会社HUDGE・代表)は話す。

ブース一つひとつがバーカウンターのような、迎い入れる雰囲気を醸している。リラックスできる照明の中、ブースに近づきやすいだけでなく、他の人の視線を気にせずに、手にとりながらじっくりと商品を眺められる。販売員となる作り手も話しかけやすく、お客さんとの会話も長くなっていく……、ものを媒介に人と人の距離が縮まり、理解も深まる。だんだんとブースそれぞれが、小さなコミュニティスペースに見えてきた。

どのブースも魅力的。「新世界工藝網」という企画では香港デザイナーによるブースも。また「若手職人チャレンジ発表会」ブースでは、越前市伝統工芸・三産地の若手職人による新作が公開されていた。普段は製作に打ち込んでいるため、買い手と接点の少ない職人も、生の声を拾うことができる機会となっていた。

盛り上がっていたのが、ワークショップエリア!子どもたちが集まっているブースも多かった。越前打刃物体験や手漉き和紙体験、オリジナルバングルづくりなど、コンテンツも幅広く、あちこちで夢中になっている大人と子どもを見かけた。

まだまだ暑かった8月。ちょっとビールでも片手に休憩を……と外に出た。屋外には、地元飲食店による屋台フードが並ぶ。夕暮れの屋外多目的グラウンドでは涼しい風も吹きはじめていた。真ん中テントのDJブースからは音楽が流れて、イスに座ってくつろいで談笑している人たちもいて、ちょっと避暑地感。

ここでは、今年からの初企画となるプロジェクト「工藝伝波」が展開されていた。これは県内外から他ジャンルの「藝」を持った人が集まり、それぞれに企画や出展など個々のプロジェクトを行い、能登半島地震被災者を支援につなげようとする場だ。

能登半島のチャリティ企画「能登とととプロジェクト」は、能登にまつわるグッズ販売やシルクスクリーン体験を通して復興支援につなげていた。

初日の夜は、まさにお祭りのような雰囲気で

24日15時〜21時には、毎回人気の「ギブミーベジタブル」が開催された。持参した野菜をその場で即興料理するというプロジェクトで、全国に有志でフランチャイズ展開しているもの。毎回開催場所によって参加する料理人が異なるのが魅力で、越前バージョンということで越前の料理人らが腕を振るっていた。同じ食事を楽しむというのは、参加者の交流の大きなきっかけになる。(そして冗談抜きで即興料理、本当に美味しい、ごちそうさまでした!)。

19時からは、「Craft Soundscapes」の放映された。これは越前市内の伝統工芸の工房の風景とその作業音を組み合わせた、アンビエントムービーだ。職人さんたちの製造過程や日常を切り取って作品化したもの。流れる映像を見ながら、さらに深まっていく歓談が心地よかった。

「『工藝伝波』は、旧来の友人や仕事仲間などと、DIY精神で作り上げました。テント設営、企画運営など全般、全て自分たちでやりました。工藝という分野以外にも、ものづくりの精神は共通しているはずです。そこがつながっていれば、ジャンルが広がっても共存しあえると思っています。今年やってみて手応えがあったので、来年はより一層育てていきたいですね」と内田さんは振り返る。

来場人数がいくら多くても、そこで交流が生まれているイベントは多くない。買い手と売り手を一歩近づける空間づくり、伝統工芸の職人を人前に登場させるきっかけ、「ものづくり」に理解のある異ジャンルを交わらせる企画など、「千年未来工藝祭」はそういった意味でも、“物販イベント”で終わらせない仕掛けが散りばめられていた。26日には、越前の工房を巡る機会となるマテリアルツアーと題した特別企画も。

筆者撮影

伝統工芸やものづくりを、どう1000年先の未来につなげるか?イベント名が名付けられている意味もそこにある。ものづくりの解釈を広げて、さまざまなジャンルと共存させる。共鳴し合う人たちとの場が少しずつ積み重なることで、小さな波紋が広がり、大きく動かす力になり得るのかもしれない。

開催概要

千年未来工藝祭2024
日時:2024年8月24日(土)25日(日)
会場:武生中央公園 越前市アイシンスポーツアリーナ(福井県越前市高瀬2丁目8-23)
料金:入場無料
https://craft1000mirai.jp/

取材・執筆
小倉 ちあき
撮影
HIRO YAMASHINA
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