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フェアレポート | 初開催の「Tokyo Gendai」から始まる、東京から世界に開かれた新しいアートフェアとは?

世界のアートシーンを捉えたいなら、まずアートフェアを覗くべし。

今年誕生した「Tokyo Gendai」は、日本で最も注目を集めているアートフェアといっても過言ではないだろう。2023年7月7日〜9日(VIPプレビューは7月6日)の間、パシフィコ横浜に国内外73のギャラリーが集結した。テーマはコンテンポラリー(現代)。アジアを中心に国際的なアートフェアを展開し、世界の第一線で活躍する組織「The Art Assembly」によって主催された。賑わいを見せる会場に足を運んだ。

TokyoGendai_logo 画像提供:Tokyo Gendai

まるでアートバーゼル香港!? 横浜に集まるアートコレクターたち

2023年7月6日、会場入場口は大混雑していた。14時〜17時までのVIPプレビューの招待者が、入場待ちのために、熱気を帯びた様子で長い列を成している。VIPプレビューとは、一般公開日前に行われ、アートコレクターやアート関係者を招待することで、いち早く作品を見てもらえるように特別に設けられている。この3時間で、目ぼしい作品は速攻売れてしまうことも多いという。

混雑する入場口付近

会場はワンフロアのみ。広い空間には、ギャラリーを代表とする作家による展示「Galleries」、新人または中堅のアーティストによる作品展示「Hana ‘Flower’」、テーマに基づく展示「Eda ‘Branch’」やNFT・アニメーション・映画・AR・VRなどのデジタルメディアを中⼼とした展⽰ 「Tane ‘Seed’」4つのセクションに分かれている。73のギャラリーのうち、日本のギャラリーは半分以下で海外色が強い印象だった。

画像提供:Tokyo Gendai

画像提供:Tokyo Gendai

会場に入ると真ん中の空間に大きなインスタレーションが広がる。京都の町のように東西南北に伸び、整理されたギャラリースペース。アートバーゼル香港や台北當代(タイペイダンダイ)も同じような展示構造になっており、これらのアートフェアに訪れたことがあれば既視感があるかもしれない。歩きやすく見やすいというのは、選びやすく買いやすいということと同意義だろう。

彫刻家・⼤平⿓⼀氏による『The Circuit』。画像提供:Tokyo Gendai

『The Circuit』は、レーストラック、電気回路、シナプス回路、そしてそして哲学的概念におけるリゾーム(根茎)など、「サーキット」という⾔葉⾃体のさまざまな定義を暗⽰させる作品だった

美術館のように、テーマ性で魅せる展示

特徴的なのは、ギャラリーのつくるブース空間。「日本のランドスケープ」「ポップカラー」「シュールレアリスムのような野心のある展示」など、各ギャラリーがテーマをそれぞれ設定していたこと。テーマに沿って作家と作品を組み合わせられるため、異なる作家同志の繋がりも作ることができたという。ギャラリー現地の空間をそのまま切り取って、持ってきたかのような演出をするギャラリーもあった。

「Tsubomi ‘Flower Bud’」セクションでは、アーティゾン美術館副館長の笠原美智子氏と、東京写真美術館学芸員の山田裕理氏のキュレーションによる「Life Actually: The Work of Contemporary Japanese Women Artists」展を開催。日本を代表する女性アーティストたちの作品が紹介されていた。ギャラリーの枠を超えた相乗効果も楽しめただろう。

⽇本のアートシーンを牽引するスピーカーによるトークセッションも連日行われた。国際芸術祭「あいち2022」の芸術監督を務めた森美術館館長の⽚岡真実氏、彫刻家の名和晃平氏や大阪・関西万博で2つのパビリオンを担当する建築家の永⼭祐⼦氏などが名を連ねた。

フェア会場に用意されていたカフェブース

休憩スポットとなったプレスルーム

フェア期間中には、寺田倉庫とも連携し、TERRADA ART COMPLEXでのナイトタイム特別営業「ギャラリーナイト」や、⼀般社団法⼈⽇本現代美術商協会(CADAN)の主催による展覧会「CADAN:現代美術2023」も開催。官公庁と協力体制のもと、コレクターのみならずアートを通したパートナーシップの機会も広げられた。

左からTokyo Gendai 共同創設者 マグナス・レンフリュー氏、Tokyo Gendai フェアディレクター 高根枝里氏。画像提供:Tokyo Gendai

アジア地域の重要なハブになりえるか。

なぜ「Tokyo Gendai」は注目を集めているのか? それは「The Art Assembly」のメンバーであるマグナス・レンフリュー氏が、共同創設者となっていることが大きいだろう。「The Art Assembly」は、アート・バーゼル香港や台北當代などを創設し、アジア太平洋地域において主要な国際アートフェアを実施してきた実績がある。ギャラリーとの関係性も強固なため、メガギャラリーを誘致しやすく、勢いのある作品が見られる可能性も高い。

期待しているのは作品を求めるアートコレクターだけではなく、ギャラリストもそうだ。「Tokyo Gendai」は日本で初めて保税取得を取得した世界水準の国際アートフェアだ。海外からの出展者は、関税等を留保した形で美術品を持ち込み、展示することが可能となった。海外のコマーシャルギャラリーにとって関税の免除は大きなメリットだ。「Tokyo Gendai」が魅力のあるアートフェアに育てば、他への出展を控えてでも、このフェアを軸にビジネス計画を立てるようになるだろう。

会場の全体像。画像提供:Tokyo Gendai

また、株式会社三井住友フィナンシャルグループがプリンシパルパートナーとなっているのも興味深い。プライベートバンクという、富裕層向けの資産管理を行う金融サービスで、アートを介在させることで円滑なコミュニケーションツールとなる。高額な作品が飛び交うアートフェアとの親和性は高い。約360万人いるといわれている日本の富裕層の数は、1位のアメリカに継ぐ世界のベスト2位だ(※)。この富裕層が動けば、日本のアートマーケットも変わっていくだろう。

※参考元:コンサルティング企業キャップジェミニによるレポート。キャップジェミニは富裕層(HNWI: high net worth individual)を「居住用不動産、収集品、消費財、耐久消費財を除き、100万ドル以上の投資可能資産を所有する者」と定義。

左からTokyo Gendai プリンシパルパートナー 三井住友フィナンシャルグループ 執行役社長グループCEO 太田純氏とマグナス・レンフリュー氏。画像提供:Tokyo Gendai

これらが今年誕生した「Tokyo Gendai」が、日本が世界のアートシーンに打って出るための商業的な交流の場となり、ビッグチャンスになり得ると期待されている理由だ。

公式プレスリリースによると2023年7月7日(金)から7月9日(日)(※VIP プレビューは7月6日)までの3日間で、主要なコレクターや美術館・アート関係者を含む20,907人が来場したという。先駆者として東京を舞台に開催されてきた「アートフェア東京」も2023年3月に開催されたばかり。こちらの総来場者数は約56,000人だと公式プレスリリースで発表されていた。来場者数だけが答えではない。どの位作品が売れたのか、ビジネス交流が進んだのかが気になるところだ。来年以降の動きも見守りたい。

<開催情報>
Tokyo Gendai

日程|2023年7⽉7⽇(⾦)〜7⽉9⽇(⽇)*7⽉6⽇(⽊)はVIPプレビュー
会場|横浜国際平和会議場(パシフィコ横浜)
主催|The Art Assembly(ジ・アート・アセンブリー)
詳細|https://tokyogendai.com/

取材・執筆
小倉 ちあき
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