TEKTON対談 〜SDGs編〜
「企業を長く続けるためには?」「社員にとって働きやすい環境とは?」。これらは経営者が幾度となく向き合うトピックだろう。今世界的に注目を集めているSDGs(持続可能な開発目標)。国連で採択されている17の大きな目標は、「経済」「環境」「社会」のバランスを取っていこうとするもので、企業経営にもあてはまるものだ。
明治8年創業の鉄・非鉄の専門商社である「株式会社佐渡島」代表取締役 佐渡島 康平氏と、建築物件の再生や新築を多く手がけている「ARCHIXXX眞野サトル建築デザイン室」 眞野サトル氏が、SDGsやデザイン思考から考えるこれからの持続可能な会社づくりついて、ざっくばらんに語り合った。
・株式会社佐渡島/代表取締役 佐渡島 康平氏
大阪・長堀橋に本社を構える、創業明治8年の鉄・非鉄の専門商社。また部品の加工やオリジナル製品の開発も行うメーカー機能も持ち合わせている。建築建材だけでなく電機メーカーなど多岐に渡る取引先を持ち、日本・世界向けて事業展開をしている。
http://www.sadoshima.com/
・ARCHIXXX眞野サトル建築デザイン室/ 眞野 サトル氏
店舗・オフィス・住宅などを舞台に、新築やリノベーションなど幅広く取り扱う。豊かな空間造りをさまざまな視点から提案。近年では修成建設専門学校の教壇に立ち、SDGsを意識した建築の在り方について学生に伝えている。一級建築士。
https://archixxx.jp/
働きやすい環境づくりは、SDGsの大切なキーワード
眞野サトル氏(以降、眞野氏):御社はまさに、商業の街・大阪を象徴するような企業ですよね。146年という長きにわたって経営が続いているのは、御社にいい企業風土があるからだと思います。
佐渡島 康平氏(以降、佐渡島氏):私どもが大切にしているのは、変化への対応力。目標として具体的な数値目標を掲げています。それを実現するためには、強みを伸ばしていくことやそれに伴う社員の採用、変化する時代に合わせた社内環境の適応も必要だと考えています。
眞野氏:なるほどですね。時代が進むにつれて、会社の在り方を周りの社会とどう合わせていくかということは、重要な視点ですね。
─ 近年、SDGsというワードが多くささやかれていますね。
眞野氏:いろいろな企業にお邪魔させていただく中で、SDGsの実行方法が掴めていない企業もまだまだ多いと感じています。私は、SDGsを重く捉えず、身近なところから実現すればいいと考えています。御社ではSDGsへの意識はどのくらい持たれていますでしょうか?
佐渡島氏:環境への配慮に関しては意識しています。一部の営業車をHV化、太陽光発電による蓄電池利用など、まずできる範囲のことから近年取り組み始めています。
眞野氏:素晴らしいですね。企業がもたらす環境への配慮は、まさにSDGsへの取り組みですよね。
佐渡島氏:弊社は今年で創業146年目を迎え、150周年を見据えた「本社リニューアルプロジェクト」と題して、オフィスそのものの改修からシステムの再構築まで、大きな改変を行う予定です。会議室やオフィスなど3フロアまるごと、レイアウトも組み直す計画です。カフェやフリースペースなどを設けることも考えており、同時に、ペーパーレス、社内のフリーアドレス化や社内資料のデータ化などの業務環境の見直しも進めたいと考えています。
眞野氏:会社は人で成り立つもの。項目8『働きがいも経済成長も』という項目もありますが、社員が働きがいや働きやすさを感じられる社内環境を整えることは、十分SDGsへの取り組みだといえると思います。時代に合わせた環境整備も必要ですよね。
「問う」というデザイン思考が活きる時代に
佐渡島氏:オフィスリノベーションについては、ぜひ眞野さんのご意見を伺いたいところです。
眞野氏:大切なのは、これまでの場所の概念を一度全て取り外してみること。フリーアドレス化すればオフィスの中で固定席を持たずに、ノートパソコンなどを活用して自分の好きな席で働けるようになります。気分によって働く環境を選べたり、部署を越えたコミュニケーションが促進されたり、気分転換やアイデアが生まれやすくなったりするメリットがあります。
佐渡島氏:会議室、書庫やロッカールームなども当時のままなので、時代に合ったというか、今の社員に使いやすい環境に変えていきたいんですよね。
眞野氏:例えば、物置になって役割を失っていた空間も、“1人用休憩室”などにリノベーションすれば、体調が悪い人が籠もって仕事ができる、活きた空間になるかもしれません。
佐渡島氏:柔軟に考え直す思考は良いですね。柔軟性は会社を大きくする秘訣。社員全員に働きやすさを感じてもらえる環境づくりは、広い意味での企業デザインといえそうです。
眞野氏:まさに未来志向のデザインですよね。問題解決だけがデザインなのではなく、これからは、問いかけることもデザインなのだと僕は考えています。例えばオフィスであれば、こうすれば楽しく働ける可能性があるのではないか?と将来をイメージして、デザインや建築の提案をすることができる。会社の1階にあるカフェがものすごく美味しかったら、もしかすると休日にも会社に行きたくなるかもしれない(笑)。仕事以外のときでも、いつの間にか会社に人がいる状態が当たり前になるかもしれない。
佐渡島氏:面白いですね。会社に対するロイヤリティも高まるでしょうね。
眞野氏:居心地の良い会社ってなんでしょうね。仕事だけではなく、その人の居場所が会社にあるっていうのもありかなと。サードプレイスのような。入口のエントランスで美味しいコーヒーが飲めて、読みたい本がそこにあったら?それだけでもその人にとって、会社との距離が変わるかもしれません。
佐渡島氏:他社と差別化もできるでしょうし。社内環境を良くすることとは、社員の満足度を上げるということでもありますね。
眞野氏:空間には、会社と人との関係性を変える力もあると思うんです。自分の会社より良い会社は他にはない、社員の満足度があがれば、それは自然と働き方や社内の温度にも影響します。今は口コミの時代。あの会社っていいよねという評判が広まると、自然と適した社員が集まり求人もしやすくなるでしょう。
次の世代によりよいバトンを渡すこととは?
佐渡島氏:専門商社は、人材が全てです。弊社の従業員は約220人。新卒社員の採用に関しては、毎回悩みますね。このところ、働き方、休日やテレワークの可否などの福利厚生についてはよく聞かれるようになりました。ライフワークバランスなどが叫ばれるようになって、学生たちの意識も大分変わりましたね。
眞野氏:近年、専門学校や大学もSDGs教育にかなり力を入れています。僕が講師をしている修成建設専門学校でも、『Sゼミ』というSDGsへの理解を深めるための学校行事を毎年、開催しています。SDGsに取り組む企業のレクチャーをいろいろ受講できるもので、建設業界に限らず、IT業界、流通業界、アパレル業界など、さまざまな企業が参加してくれています。就活面談でも、自分が体験してきたSDGsへの取り組みについて話す機会も増えていることから、SDGsへの取り組みを行っている企業に対して、学生が興味を持つことも多いようです。
佐渡島氏:なるほど。SDGsというワードは、選ばれる企業になるためにも、企業が意識するべき内容なのかもしれませんね。
眞野氏:中途採用に関してはいかがでしょうか?どのくらいの割合で採用されていらっしゃるのでしょうか。
佐渡島氏:新卒社員と中途社員の割合は6:4です。中途採用にも力を入れています。社員の平均年齢は45歳と高め。それは、勤続年数が長い方がいることだけでなく、専門的な知識・経験を持った高齢の方を中途採用しているからです。
眞野氏:なるほど。僕たちのいる建築・設計業界では、即戦力になる中途採用が好まれるように思います。
佐渡島氏:最近採用した営業職の方は63歳なのですが、フットワークが軽く、バイタリティや幅の広さもあります。もしかすると会社で一番バリバリ働いているんじゃないでしょうか(笑)今後は65歳以上の経験値も活かしたい。若手と経験者がバランス良く混ざり合うことで、会社にとっていい融合を生み出したいです。
眞野氏:日本は今後少子高齢化がますます進んでいくので、企業を続けていく上で考えるべきポイントになるでしょうね。定年を過ぎて再就職しても働きやすい環境であることも、今後大事な視点になりそうです。バトンをつなげていくための大事な調整だと思います。
佐渡島氏:ちなみに私は、6代目として株式会社佐渡島を継いでいますが、先代の代表(父親)は、今でも週に3日程度出勤します。会議に至っては全部。父の仕事への意欲には、本当に感心させられます。
眞野氏:共感します(笑)。僕も今の仕事が好きなので、生涯現役でいたいですね。
佐渡島氏:なるほど。創業者ならではの感覚なのかと思いますね。私は6代目として、先代からの意思を受け継ぎ、次の世代によりよいバトンを渡すことが仕事だと感じています。0→1は創業者ならではの仕事。1→2(できれば10)にするのが私の仕事で、これは私に与えられたありがたい役割だと感じています。現在グループ全体で約800億の売上がありますが、150年までの後4年間に約1000億、経常利益で20億が数値目標です。経済との両立を叶えながら、同時に次の世代へ繋ぐSDGsも達成していきたいです。
眞野氏:バトンを次の世代へとつないでいくことで、持続可能な企業が生まれます。バトンを受け取った役割の方が、時代の節目節目でどうつなげていくか?どう変えていくか?は重要になってきますよね。
佐渡島氏:若手や経験者、職種や役割を越えて、さまざまな人を受け入れられる環境を整えていきたい。社内にも社外にも「未来がありそう!」だと感じてもらうことは、選ばれる企業、ひいては続いていく企業になるために重要なのかもしれませんね。