「ジャパンパビリオン」ブース出展企業インタビューvol.2
2025.01.16
CONTENTS
「ジャパンパビリオン」ブースに出展して。
香港コンベンション&エキシビションセンターで開催された、デザイン展示会「DESIGN INSPIRE(デザイン・インスパイア)」(2024年12月5日から7日)に出展した日本企業を、前半後半に分けて紹介していきます。出展企業7社に、DESIGN INSPIRE出展への思い、新作プロダクトについて、香港デザイナーとのコラボレーションについて、今後の展開への期待など、企業ごとにさまざまな話を伺うことができた。 vol.1に引き続き、vol.2と進んでいこう。
国内外で、アラカワグリップのファンを増やす。荒川技研工業株式会社
ピクチャーレールとワイヤー吊り金具システム「アラカワグリップ」を開発した荒川技研工業株式会社(以降、荒川技研工業)。DESIGN INSPIREの存在を知ったのは、2018年。今年、日本のものづくりを担う企業と共同出展できたに意義を感じたと荒川真氏は話す。「コラボしてきた企業さんたちと改めて向き合い、各社どうブレイクスルーをするか、前向きでざっくばらんな対話ができた機会になりました。また、私たちが日本という場所でものづくりをしているからこそ、世界に出た時に価値があるのだと思います。日本という信頼感。特に伝統工芸などは、地域の味が出ていると思う。関西にはだし文化があるみたいに。そういう意味でも、今回のような海外で魅せる機会は重要だと感じます」
荒川技研工業にとって、今回の香港入りは特別な機会でもあった。アジアの優れた持続可能なデザインや取り組みを世界に紹介する「DFAアワード 2024」で、DFA Design for Asia Awards 2024(DFAアジアデザイン賞2024)のコミュニケーションデザイン部門にて、創業50周年プロジェクト「50 GRIPS 特装版」が金賞を受賞したのだ。プロジェクト集大成となった書籍は、荒川技研工業が、これまでどれだけ著名な建築家やインテリアデザイナーに信頼されてきたかを物語る内容となっている。ジャパンパビリオン内で実施されたトークイベントでは、プロジェクトディレクターであるプロダクトデザイナーの秋山かおり氏も登壇。編集に至った経緯などを紹介し、立ち止まった観客も興味深く話を聞いていた。
アラカワグリップは、建築家や設計家、ファッションなど横断的に使える製品。細かったり、太かったりと用途に応じてさまざまに選べるのが製品の強みだ。実際に使ったデザイナーや建築家などからの、口コミでの広がりも大きいという。
「製品の価値を知ってもらうために、まず実物を触ってもらうのが一番早いと考えています。デザイナーの人に体感してもらうことが大事なんです。そういう意味でも、香港はぎゅっとコンパクトにまとまっていてコミュニティがつくりやすいだけでなく、デザイナーのクオリティも高く、層が厚いと感じました。ワイヤーという存在は、一見その価値がわかりにくくもありますが、“存在感がない”こと自体が弊社の価値でもあります。「AIR SHOJI」でもそうですが、コラボ製品や空間の存在を引き上げてくれるものとして活用してもらいたいです。ワイヤーを使いたいな、と感じた時に、“あ、荒川があるな”と。いかに思い出していただくかが重要かなと」
いいつながりというものは、いつ返ってくるかわからない。日本を超えていろんな場所で、いろんな接点を持ち、世界の中でポジションを見つけていきたいと荒川氏。信頼の積み上げが答えてくれる。製品力を携えた姿勢で、未来を見据えている。
木製ドア×特殊塗装の新しい未来を。株式会社ウッドワークス
住空間を彩るドアという存在。意匠性と機能性を兼ね備えるドアを製造・販売する株式会社ウッドワークス(以降、ウッドワークス)も初出展に挑んだ。香港デザイナーのCM Jao氏とマックス・ラム氏の2名との製品開発も実施。デザイナーとのコラボレーションは初めての取り組み。デザイナーからの提案を受け、ドア角がアール仕様になるなど、新鮮な目線を感じたという。
ブースには、海外では未発表の製品も準備されていた。国内とは異なる需要があることを想定して、ミラノサローネなど、他の見本市をリサーチして決定したという。芸術作品のような佇まいが特徴の「ARTECT the prime collection(プライムコレクション)」のなかから、岩山を削り出して作った希少な天然石を使用した「Galaxy(ギャラクシー)」とライティングを工夫することで光と影が際立つ「Type3-Ripple(ハイグロス)」など4つがセレクトされた。驚きなのは、これらの仕上がりは、全て木材に塗装で仕上げられているということだ。
「特殊な塗装を施して、木製ドアを彩る。木製ドアの発展系のような位置付けのブランドです。弊社はキッチンと組み合わせてオーダーいただくことが多くあります。キッチンの表情を決める塗装にはこだわりが強いことが多く、塗装には手間暇かけて行います。それは、徹底した数値管理とクラフトマンがなし得る人の技。この2つの融合によって生み出されたのが、ARTECT the prime collectionです」とウッドワークスの河井頼継社長は語る。
“どう魅力を感じてもらえるか”という部分に対しては、出展を通してさまざまなアイデアも浮かんできたとウッドワークス Aria&Aura事業部 雲岡 祥平氏は続ける。「パッと見ると金属だと思われがちですが、実は塗装だと説明するとよく驚かれます。香港でその反応を見てみたかったというのはありますね。次回の課題としては、塗装のユニークさをより伝えるために、半分だけ塗り分けたり、ビフォアアフターを見せたりして、その過程を伝えられる展示方法を考えたいと思います」
協業パートナーとして参加した福山キッチン装飾株式会社 営業部 諏澤 博之氏は、ジャパンブースの取り組みについて面白い企画だと述べた上で、「一社一人勝ちの時代では今はない。業界でまとまって動いていく必要があると思います。例えば、DESIGN INSPIREは、デザインがメインの展示会なので、製品の展示にとどまらず、圧倒的に目を惹くものを持ってくることで人が立ち止まるような仕掛けも必要かもしれません。デザイン的にも惹きのあるオブジェが、“実はドアなんです”とか、心が動かされるような仕掛けをブースデザイン設計の段階から行えたりすると、日本のものづくりブースとして全体的に存在感がもっと出せるかもしれませんね」とアイデアを話してくれた。
海外展開には、施工という障壁を超えなければいけないドアという商材。現地での代理店や施工会社との繋がりも必要だ。難しさを感じつつも、前向きなアイデアもしっかりと届いている。ブラッシュアップを重ねて、伝え続けることがその先に辿り着くヒントになるかもしれない。
DESIGN INSPIREを振り返って、得られたもの。株式会社ユニオン
”アートウエア”なドアハンドルを生み出すメーカー、株式会社ユニオン。CM Jao 氏とのプロダクト開発については、前出した通りだが、展示会の枠にとらわれないようなさまざまな取り組みが行われたことについて、株式会社ユニオン 開発デザイン室 知財担当 室長の宮本尚幸氏は、貴重な体験だったと話す。
「企業のデザイン責任者や事業主など、新しいものを探しに来ていたのが新鮮でした。ロシアやヨーロッパなど、中国と関連のある企業が香港にネタを拾いに来ているという気づきもありました。またHKDCのデザインショーや、デザインセンターとの交流、デザイナーのオフィス訪問、香港での関連デザインイベントの回遊など、展示会に出展するだけでなく、広い意味での交流ができたというのは大きなメリットでした。DESIGN INSPIRE期間を含む1週間が香港のデザインウィークになっていたことで、さまざまな方が会場に足を運んでくださり、製品を見ていただく機会になりました。それが今すぐではなくても、ブランドの浸透やそれに伴う売り上げに繋がってくると考えています」
日本建材協会のデザイン委員会の副委員長でもある宮本氏。来年度も、ジャパンパビリオンを訪れると、いろんな日本のものづくりが見られるような動きをしていきたいと話す。「日本のものづくりという切り口で言えば、今は扱っていない商材も多くあります。同じ視点を持ち、取り組んでいきたい仲間を増やしていけたら嬉しい。その企業でしかできないようなものづくりを誇りたい。そうすることで日本の市場価値のアップ、さらに拡大していきたい。ユニオンとしても、2026年には新商品を出したいと考えています。2025年にDESIGN INSPIREが開催され、出展することが決まるならば発表の機会を持てたらいいですね」
今後、より一層海外デザイナーとの交流も増やしていきたいという。建材という分野から少し離れて視点を広げてみると、さらなる領域が見えてくる。ドアハンドル、そしてジャパンパビリオンの可能性はまだまだ広がっていく。
開催概要
開催日時: 2024年12月5日〜7日
開催場所: 香港コンベンション&エキシビションセンター
主催:香港貿易発展局
協力: (一社)日本建築材料協会、近畿経済産業局
公式サイト:https://designinspire.hktdc.com/