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「ジャパンパビリオン」ブース出展企業インタビューvol.1

「ジャパンパビリオン」ブースに出展して。

香港コンベンション&エキシビションセンターで開催された、デザイン展示会「DESIGN INSPIRE(デザイン・インスパイア)」(2024年12月5日から7日)に出展した日本企業を、前半後半に分けて紹介していきます。出展企業7社に、DESIGN INSPIRE出展への思い、新作プロダクトについて、香港デザイナーとのコラボレーションについて、今後の展開への期待など、企業ごとにさまざまな話を伺うことができた。

香港の現地で拾い上げたアイデアを形に。中井産業株式会社

天然木の個性を活かしたブランド「KITOTE」を展開する中井産業株式会社(以降、中井産業)は、この香港の地で誕生したという、AIR SHOJIを用意していた。「初めてDESIGN INSPIREに出展したのは2018年でした。会社の海外展開をちょうど考え始めていた2016年頃、リッキー・チャンのトークイベントに参加したんです。その話が心に残って、香港の自由な雰囲気とその土壌に惹かれたことから、まず香港を足がかりに海外進出をスタートしようと思いました」と尾﨑義明社長は当時を振り返る。

初出展時に、海外の企業との繋がりも生まれたという。初取引が進むかという段階でひとつの問題にぶち当たったという。「私たちの主力商品である障子は、引き戸が前提になっています。でも香港には、家づくりにそもそも引き戸がないんです。香港のバイヤーにそれでもなぜ障子に興味を持ったか恐る恐る聞いてみると、『美しさに惹かれた。これを壁に貼りたいと思ったんだ』とコメントされたんです。なるほどと気づかされましたね」。

そのことを荒川技研工業株式会社の荒川さんと会話している時に、荒川さんが「障子、吊りません?きっと面白いと思いますよ」と一言。これがきっかけで誕生したプロダクトが、AIR SHOJIなのだという。

「障子を扉として設置するには、必ず施工が必要となるため、香港ではそれがネックでもありました。障子を吊り下げたり、壁につけたりする製品が需要にも適しており、面白いと考え開発に至りました。香港での出会いで生まれた思いのある商品です」と尾﨑社長は微笑む。AIR SHOJIは、日本の伝統的な建材である障子を、装飾品というカテゴリーに変換して生み出された、中井産業のものづくりを海外に伝えられるストーリーのある代表的な製品となった。

AIR SHOJI LIGHT

今回初お披露目となった製品が、「AIR SHOJI LIGHT」だ。尾崎社長のアイデアにより生まれたプロトタイプで、どうしてもデザインインスパイアに間に合わせたかったという。「旅館やホテル、和食店舗の壁にかける装飾品。これに関しては、使われる場所に関してのイメージをきちんと持って開発しました。香港の商業空間や居住空間に合う、ミニマムなサイズ展開。また香港は食文化が豊かな国で、日本食の店舗も多い印象です。その中でより良い表現しようとした時に、味やサービスだけでなく、空間そのもの日本産の製品でつくりたいというニーズが出てくると感じています。それに貢献できることを期待しています」

中井産業株式会社 尾﨑義明社長

伝統的な美しい和空間を支えてきた障子の存在。香港でどう受け入れられるか、今後の実販売に向けて期待が高まる。

 

金箔の価値を求めるところに届けたい。古松株式会社×株式会社箔一

一際キラキラと輝いているブースがある。金箔で日本の伝統に根ざしたものづくりを行っている株式会社箔一(以降、箔一)と、和紙・金銀箔押紙・裂地等の表装材料などの卸売販売を行う古松株式会社(以降、古松)が、香港への金箔建装飾商品の展開を目指してコラボ出展した。箔一は、建築装飾や箔材料だけでなく、工芸品や化粧品、食用金箔などの金箔応用商品の製造や、金箔製品の加工・販売にもジャンルを広げている。金箔文化を伝える担い手として、箔一の浅野達也社長は、日本のものづくりにも深い思いを抱いていた。

(左)株式会社箔一 代表取締役社長 浅野達也氏、(右から2番目)古松株式会社 取締役専務古松宏純氏

「日本の金箔生産の中心地として知られ、その文化は約400年以上の歴史を持っている金沢。箔一は金沢箔の伝統を継承しつつ、新たな価値を創造し、国内外にその魅力を発信したいと考えています」

箔一の金箔づくりには、職人による手仕事が欠かせない。金箔をつくるという工程には、細やかな温度管理が必要で、春夏秋冬の気温や湿度によっても仕上がりが変わってくるからだ。長年の伝統工芸技術を駆使した金箔を使う箔一のものづくりにおいては、金箔のもつ特別な質感やオリジナリティを大切にし、インテリアの領域に於いても、通常の“工業製品”とは違う特別な製品に高めていけるように心がけているという。

「人の手が介することや偶然性。そういうところに日本の精神性は現れますし、それこそが我々が大切にしたいところ。私たちの金箔製品は、機能性を求める方に販売しますが、機能性を重視したものは、敢えてつくらないようにしています。商品を通して、日本のこころを提供したい…、インテリアやデザインに携わる人は、その感性を持ち合わせていると感じています。今回のDESIGN INSPIREに参加したのもそのため。海外でアンテナを広げておられる“彼ら”に預けたいんです。伝わる方に届けたいので、押し売りはしませんよ」と浅野社長は穏やかだ。

今後は国内外を問わず、「ものづくりを大切にしている企業や人と仕事をしていきたい」と浅野社長。ブースに集まった海外企業やバイヤーたちも、金箔の美しさに惹かれているだけでなく、その先にある日本の精神性を感じていたかもしれない。

デザイナーとのコラボレーションでタイル文化を切り開く。株式会社平田タイル

初のDESIGN INSPIRE出展となった、株式会社平田タイル。タイルと水まわりの総合プロデュース企業としてインテリアの本場イタリアをはじめ、世界各国からデザインと品質に優れたタイルを厳選して販売する総合企業だ。紹介された新作のプロトタイプは、香港在住デザイナーのデニス・チュン氏と開発していった。通常1年かかる開発期間も、今回は3ヶ月というタイトスケジュールで完成したというが、どのような流れで開発は進んだのだろうか?

左から、株式会社平田タイル 開発営業統括部 西日本営業部 大阪営業課小田垣良佑氏、株式会社平田タイル 開発営業統括部 マーケティング部 部長橋本哲徳氏

ファブレスメーカーとして自社企画商品も製造し、サステナブル社会と共存できる新しいタイル文化の構築にチャレンジしている平田タイル。キーワードはサステナブルと据えていた。「日本と香港が共通する何かを取り上げたい、というデニス氏のアイデアがまず先にありました。例えば、香港にも日本にもある文化である、祈る習慣や日本と香港の共通点でもあるビル群や湾などの景観などにアイデアが広がりました。そしてこれらのインスピレーションをデザインに落とし込む作業が始まりました」と開発営業統括部 マーケティング部の橋本哲徳氏は振り返る。

デニス氏との開発にまつわるトークイベント

デニス氏は、コンセプトが決まってから岐阜県多治見にある工場を訪れた。タイルの工場は成形や釉薬をかける工程、成する設備などそれぞれ得意とするポイントが異なる。特に施釉において色をぼかす技術や立体的な形が成形できる工場はられている。今回の開発では料工場からプレス成形、施釉、シートりまで全ての工程を実際に見ながらコンセプトに合う色や形をタイルに落とし込んでいった。

「実際に工場を訪れ、モザイクタイルは人が並べている作業があることをデニス氏自身が知ったことで、アレンジがより多様に施せることに気づいてもらえたのは大きかったですね。既成概念を超えられました。またタイルメーカーだけでものづくりをすると、コストやスムーズな工程などへの意識がどうしても入ってきてしまいがち…。デザイナーが少し無茶をして、アイデアを実現しようとする方が想定以上のものができることを体験しました」

また、香港と日本のものづくりの違いから気づきも得たという。「一つのものをつくる上で、日本に100のステップがあるとすれば、香港は30位のステップしかありません。素早いスピードでどんどん仕上げていくという商品開発のスピードはその企業の強みにもなると感じました。世界を舞台に競争していく上では、大切なことかもしれません」

今後輸出をしていく上で、韓国や台湾、香港を含めたアジア圏にチャンスがあると感じている平田タイル。香港という拠点は、いい足がかりになりそうだ。

 

日本のものづくり企業を世界へ届けたい。八紘電機株式会社

東大阪で50年以上、オーダーメイド照明の企画から設計、製造までを一貫して手がけている八紘電機株式会社。照明器具の枠に囚われず、日本の伝統工芸や世界の逸品とのコラボレーションにも力を入れてきた企業だ。

2021年に紹介した、「GOLDBLU Lamp」はまさにその一つ。日本の伝統として残る金箔工芸を、現代に落とし込んだ照明器具だ。専務取締役の淡野幸子氏は将来の展望について、「伝統工芸に関わる企業や人と共に、海外の人たちに求められるものを商品化して、届けるという流れをつくっていきたいんです」と話す。その背景には、日本のものづくりへの愛がある。

「いいものづくりをしているのにも関わらず、当代で終わってしまいそうな企業が、伝統工芸やものづくりの業界には多々います。うちも倒産しかけたことがあり、その時に周りの人に助けてもらった経験があるんです。自社だけで背負っていては、八方塞がりになってしまうことがあることを知っています」。だからこそ、何とかしたい。その強い思いから、2024年7月に別会社・株式会社LITAを創業。海外向けの新規事業にも取り組み始めた。

八紘電機株式会社 専務取締役の淡野幸子氏

「社内でも若手と共に、伝統工芸にまつわるプロダクト開発を行っていましたが、うまく販売に繋げられず悩んでいました。そんな時に、海外への販路開拓や商品プロデュース実績のある武田 真哉さんに出会ったんです。『手伝うので、海外に行きましょう!』と背中を押していただき、一念発起。別会社立ち上げという流れになりました」。現在はアメリカのデザイナーと協業が決定し、海外向けの茶道具プロダクトがまさに誕生するところだという。

ブースを訪れたお客様のなかには、ドイツやロシア、オーストラリア、ドバイなど海外の企業やバイヤーなど、日本での展示会では出会えないような繋がりも得たそうだ。「こういう点に香港という土地のポテンシャルを感じます。今回のジャパンパビリオンは、ものづくりに対して志を共にする企業と共同出展できたこともあり、ブース全体からもいい雰囲気が生み出せたと思います。実際にビジネスになるお客さんも多かったですし、相対的に日本らしさを理解してもらえる、いい機会になったと思います」と話す。

香港のデザイナーと日本のものづくり企業とのコラボレーション企画も、有意義に活用。200年以上の歴史を持つ京提灯の老舗・京提灯 小嶋商店の提灯と職人による絞り染めを組み合わせた製品は、香港在住のデザイナー マックス・ラム氏の新鮮なアイデアが生かされている。まさに日本の伝統工芸をオマージュした照明器具は、香港とアメリカでの販売を視野に入れて動き出している。

「ジャパンパビリオン」ブース出展企業インタビューvol.2

開催概要

DESIGN INSPIRE2024

開催日時: 2024年12月5日〜7日
開催場所: 香港コンベンション&エキシビションセンター
主催:香港貿易発展局
協力: (一社)日本建築材料協会近畿経済産業局
公式サイト:https://designinspire.hktdc.com/

イベントレポート | 香港のデザイン展示会「DESIGN INSPIRE2024」にて、「ジャパンパビリオン」が出展

取材・文
小倉ちあき
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