TEKTON

山は社会からの預りもの。
江戸時代から受け継いできた、
紀州材の価値をあげる

紀伊半島の無垢材をどう活かすか。

株式会社山長商店

色合いがよく、艶がある。粘り強さが抜群で、強度・耐久性に優れている。年輪が細かく詰まった目込みの良さや素直な木筋。和歌山県の紀州材を表す言葉たちだ。和歌山県は全県土の約77%を森林が占め、古くから“木の国”と呼ばれてきた。山へ植林する時に植栽密度を高くし、あえて成長速度を緩めるという紀州独自の育林技術が発展。早く大きな木を育てるというよりも、色艶のいい木材を丁寧に育てるという、「適地適木」を植林訓とした育林により優れた紀州材が生み出されている。

株式会社山長商店(以降、山長商店)は、創業江戸中期。紀伊半島南部を中心に、東京ドーム1300個分といわれる、国内でも有数の6,000haを誇る山林を保有している。植林に始まり、伐採、製材、乾燥、仕上げ、品質検査、選別、プレカット加工までをグループ一貫体制で行っている、日本でも希有な企業。林産物木炭問屋として江戸時代末期から育林事業に着手し、「祖父が植え、父が育てて、私が届ける」をコンセプトとして、世代を越えて紀州材の山を守り育て続けてきた。

苗木づくりから始まる山長商店の育林

紀州材は世界の針葉樹と比べても、高品質と評される木材。加工性に優れ心材の耐久性にも優れている。ただ無垢材は個体差にばらつきが出やすく、構造材として活用する上で品質の見極めが難しいといわれてきた。そこで山長商店は、紀州材の価値を引き上げるために、さまざまな取り組みを行っている。

一貫生産体制で成し得る「高品質」

山長商店の強みは選別力です、と経営企画室 取締役 企画部長の迫平隆志さんは話す。「植林から収穫に至るまで、生産者の顔が見える環境。木材の出所が把握できているため、信頼関係に基づいた良質な木が手に入りやすいです。木も人間のように、真っ直ぐ素直な木やねじれている木など、一本一本個性があります。そこで製材と加工の過程において、素材の状態を理解した上で木材を選別するためには、熟練の職人による“目利き”が重要となります。一貫した生産体制のおかげで、各所の選別力が活かされ、良質な木材が供給できるのです」

株式会社山長商店 経営企画室 取締役 企画部長の迫平隆志さん

まず製材段階では、職人が素材の“癖”を見極めて丸太を製材する。真っ直ぐ曲がらない木材製品に加工することは非常に難しく、高度な技術も合わせて必要となる。化粧用の整った製品や大黒柱など、曲がりの出やすい6m以上の木材を扱う工程では、熟練の職人が時間をかけて製材する。工務店から多様な要望が多い工程でもあるが、同時に山長商店の技量に一目置かれている箇所でもある。細部に手を抜かない職人の技術力は、山長商店の宝だ。

丸太は3m、4m、6m以上とサイズに分けられ、製材されていく

貯木場から製材工場へと運ばれ、皮を剥がれた丸太

製材後に続いて行われる、高度な乾燥工程。丸太をそのまま乾燥させると、収縮して表面割れや変形を起こしてしまう。高温蒸気式減圧乾燥機などの設備を積極的に活用し、温度や時間を管理することで従来よりも低い温度での乾燥を可能にした。木材の変色や焦げ臭さ、木材内部の割れなどを抑えられるようになったことで、無垢材を安心して使ってもらえる土台を築いている。

「2008年に、日本初である杉平角材のJAS製品の認定を取得し、製造を行っています。厳密な強度・含水率の機械測定によるJAS規格の認定取得は、一般に多く使われる集成材と同レベルで品質が安定した無垢材だという証明。さらに変色を抑え、素地の色をより活かせる化粧梁は建築(住まい)を豊かに彩ります」

山からの一貫生産体制により、安定した優良国産材の生産・供給・流通を可能にするシステムが評価され、2013年にはグッドデザイン賞を受賞。2021年には第60回農林水産祭、天皇杯を受賞。山林経営から伐採、製材乾燥まで全工程に手を抜かない姿勢が、着々と信頼を積み重ねている。

見えない部分を、見過ごさない

無垢材を使う「木の家」の需要を増やしたい。高品質な紀州材を使ってもらいやすい状況を作りたい。この想いから、1997年に立ち上げたのが無垢国産材のプレカット工場。家一軒分の部材を組み立て前の状態まで加工し、まるっとまとめて工務店に販売するというものだ。一本一本丁寧に無垢材の性質を見極め、最適な部材を“木”配りした後、専門スタッフによって作られるCADデータに基づいて全自動でカッティング。加工された木材は、加工の不備や材料の不良の有無を一本一本検品して出荷する。

これまで木の家作りにおいては、大工が無垢材を購入し、材料を見極めて適材適所に使っていた。近年、あらゆる業種で人手不足が目立っているが、住宅業界も無垢の構造材を扱える大工が少なくなっているという問題がある。「私たちのプレカット加工現場で扱う無垢材は四角に見える柱や梁桁でも山で育った時の癖が潜んでいるため、熟練の職人による目利きが欠かせません。また自分たちで設計士や工務店と直接打合せすることで、大工との確認・図面のやりとりをしながら木材の調達をすることができるため、通常の住宅はもちろん、大規模な物件や複雑な物件まで、スムーズな発送が可能になります」

プレカットの現場でも、職人による最終確認を怠らない

加工工程で職人の技術力を活かすことで、プラモデルを組み立てるように、良質な無垢材を最大限に生かした家を特別な技術がなくても建てられるようになった。構造材や内装材などの建築材はもちろん、壁や床・天井なども自然素材で仕上げる『木の家』は、シックハウスなどのトラブルも少ない。柱や梁などが、室内の湿気を吸収・放出し、家内を一定の湿度に保ってくれる効果もある。「家も人体と同じ。柱や梁は、人間でいう骨格。見えないからこそ最も大切な部分ではないでしょうか。紀州の無垢材で建てる『木の家』の価値を、もっと普及していきたいです」

林業の本質は、森林資源の循環を守ること

山長商店は、自社グループ企業だけではなく、植林・伐採などに関して地元企業との協業も積極的に行っている。木の成長に関わる人同士の企業を越えた交流も盛んで、地元和歌山での林業教育の推進にも力を入れたいとする動きもあり、今後林業の意識向上にも視点を置いている。近年では、沢田猛氏(kamina&C)と提携した「八咫烏スツール」や、美濃焼の技術を生かした「エッグタイルバスマット UFUFU」など、異業界の企業やデザイナーとのコラボにも積極的に取り組んでいる。国産木材に触れるきっかけを少しでも増やして、木材消費につなげたいという想いからだ。

地元企業と協業して伐採(収穫)を行っている

山の維持管理自体が大きな意味を持っている、と迫平さんは話す。「林業は、農業の大型版。私たちは、木を伐る行為のことを“収穫”と捉えています。紀州の木は、50〜60年でやっと一人前。例えば自分が植えた木が収穫されるのは、自分の子どもや孫の世代。農業よりもスパンが長い、何世代にも渡って築き上げていく仕事です」

樹木は大気中の二酸化炭素を吸って、酸素を生み出す。ただ木も樹齢を重ねるにつれてその吸収率が減っていく。50年60年経った木は伐って使い、新しい木を植える。植えて育てて使ってまた植える、その行為の循環自体が、大気の循環を促す。そう、木を伐って活用することが、自然を守ることに繋がっているのだ。

植えて、育てて、収穫する。
酸素を多く生む木材を更新し続けることが、林業の本質なのです

自然素材を扱い、育林から家づくりまで一貫した経営で日本の林業を支えている山長商店。日本の森林資源を循環させるという、ものづくりのその先を静かに見据えている。

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