TEKTON

デザインと伝統技術の間に立つ、
名媒介人でありたい

双方向の交流で叶う、デザインの文化的融合。

カスタムメイドハンドル / ​株式会社ユニオン

727度の高温で液状化したアルミニウムが砂型に注がれていく。5秒、10秒、15秒。注ぎ終わると、窯に移動し、液体を補充してまた注いでいく。この銀色の液体は、20分ほどで固まる。これがドアハンドルの原型となる。広い工場の中央では、別の職人たちが、木型に砂を詰め、組み合わせた型の上から体重を乗せて押し込んでいる。全ての職人たちのリズミカルで流れるような動きには無駄がない。ずっと眺めていても飽きない、一定のリズムがある。

高温で溶かされたアルミニウム

高温で溶かされたアルミニウム

株式会社ユニオン(以降、ユニオン)が鋳物の製造を委託する工場は、富山県高岡市にある。高岡は歴史的に、「高岡仏壇」「高岡銅器」などの伝統産業が育ってきた地域。仏具製造で求められる日本絵画の芸術的要素や、繊細な優美さを表現する高度な鋳造技術が培われている。「このくらいでいいだろう、をなくすこと。細かなことの積み重ねが大きな価値につながります。当たり前のことをしているだけですよ」と熟練の鋳物職人は笑うが、仕上がりの静謐な美しさは、他と比べると一目瞭然だろう。

ユニオンは、創業から60年以上続く日本を代表するドアハンドルメーカー。国内シェアは90%を占め、展開する製品は約3,000種を越える。扱う素材も多岐に渡り、形や大きさもさまざまだ。そのため、fabrication facility less(ファブレス)として、数多くの工場と提携したものづくりを行っている。それぞれの工場が持つ力量や得意分野を見極め、建築・デザインとマッチングさせることで、良質な製品を世に送り出している。

ドアハンドルの模型を砂型に押し込んで象る

ドアハンドルの模型を砂型に押し込んで象る

これまでにも展覧会やレセプションを舞台に、建築家やアーティストと数々のコラボレーションを実現してきた。「デザインインスパイア香港2021」で見られる新作は、香港出身のインテリアデザイナー、キース・チャン氏とのコラボレーション作品だ。26歳でデザイン事務所「hintegro(ヒンテグロ)」を設立したキース氏は、香港のもつ文化的多様性を引き継ぎながら、日本の家具、建材やインテリアアイテムを積極的に取り入れている。

2019年にキース氏が訪日した際、ユニオンのショールームを訪問した。設計者に寄り添ったものづくりを行うユニオンの姿勢に共感し、自らのデザインで用いて、ユニオン独自のストーンブラスト仕上げを施したドアハンドルを作りたいと考えた。

液状化したアルミニウムを型の中に流し込んでいく

液状化したアルミニウムを型の中に流し込んでいく

“Bamboo is a popular plant in both Japan and Hong Kong, and it represents “good being” and “good behaviour” in Chinese culture.(日本と香港の共に人気のある植物である「竹」は、中国文化においては「善良さ」や「善行」を表すものです)”

キース氏によるドアハンドルのデザインのベースに置かれたのは「竹」。香港と日本の文化と感性が融合された、キース氏ならではのアイデアだ。打ち合わせはコロナ禍の中、全てオンラインにて行われた。図案をもとに、ユニオンで3Dデータを作成し、3Dプリンティングでプロトタイプを用意。素材、仕上がりの細部に至るまで過程を共有して意見を出し合い、最終デザインにまとめあげた。要した時間は約半年。キース氏にとっても、ユニオンにとっても実りのあるデザインの共同開発作品。今回の展示が初お披露目となる。

(左)Hintegro ファウンダー キース・チャン(Keith Chan)さん、(右)株式会社ユニオン 代表取締役 社長 立野純三さん

(左)Hintegro ファウンダー キース・チャン(Keith Chan)さん、(右)株式会社ユニオン 代表取締役 社長 立野純三さん

国と国の距離はもはや障害ではない。むしろ、異文化同士であればあるほど、前例のないものづくりが可能となるのかもしれない。

ユニオンが、世界中の建築家やデザイナーと共有したいのは、デザインやものづくりに対する姿勢です。

そう話すのは、株式会社ユニオン 代表取締役 社長 立野純三さんだ。立野さんは、ユニオンの社長を務めながら、デザインの最高責任者も兼ねている。社内の共通認識である「ARTWARE」は、「芸術(ART)」と「ものづくり(HARDWARE)」の精神とこだわりを融合させたユニオン独自の概念だ。

「新製品を生み出す際には、ユニオンとしての意思をきちんと伝えること。建築家やデザイナーの持つ美意識を理解し、彼らの期待を超える提案をすることで、もう一つ先のクリエイティブが生まれることを期待しているからです」と立野さんは話す。

冷めてアルミが固まったところで砂型をくずし、製品を取り出す

冷めてアルミが固まったところで砂型をくずし、製品を取り出す

ものづくりに対する愛情はひとしお。日本の技術向上にも視点を置き、職人や工場に対して、「無茶」を言うこともある。それは、妥協しないものづくりを行うためだ。価値が見合うところに、価格は発生する。後につながる「無茶」は、作り手への敬意。職人と高めあえる関係を築くことが、ひいては職人技術の伝承につながっていく。建築家やデザイナーのアイデアと職人の技術力の間に立ち、製品の価値を最大まで引き上げることが、ユニオンの仕事なのだ。

ドアハンドルが生まれる過程には、物語がある。常に先を見据えるユニオンのARTWAREの概念が、世界に広がっていく。冒険はまだ始まったばかりだ。

WRITING
小倉 千明 / 編集・ライター。暮らし・地域・アートの領域で執筆。オフィスコモコモ代表。 https://lit.link/kurumuruchiiii
PHOTOGRAPH
HAGA MOMO / 写真家。舞台に立つ人や工場で働く人々の生き様、自然の美しさに鋭く迫る。
DESIGN
山中 崇寛 / Chillout Creative Space
DIRECTION
宮本 尚幸 / 日本建築材料協会デザイン委員会
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