TEKTON

日本の天然木を見直し、
ライフスタイルに取り込む

障子を通して、新しい匠の形を目指したい。

AIR SHOJI / 中井産業株式会社

明るく風通しのいい工場に入ると、削り立ての木の香りが漂ってくる。森林に入ったときに感じるあのすがすがしい香りだ。障子をメインに扱う総合木工メーカーである中井産業株式会社は和歌山にある。森林の多い和歌山は、伝統的に関西圏の建具の製造を担ってきた地域。中井産業株式会社も、1939年の創業当時から木製建具の製造を行ってきた。近年では、賽銭箱や神額などの神具も、神社仏閣に納めている。

中井産業株式会社 代表取締役社長の尾﨑義明さん

中井産業株式会社 代表取締役社長の尾﨑義明さん

優しい手触り、美しい木目やぬくもり…、天然木にはそれぞれ表情がある。人の顔がそれぞれ異なるように、育った土壌や日当たりなどの環境によって性質が異なるからだ。しかし大量生産を行う多くのメーカーは、天然木をあまり好まない。それは品質が均一化できず、扱いにくいからだ。個性を嫌うのだ。

「国内の天然木という資源をもっと活用したい。日本人は、昔から木に囲まれて暮らしてきました。木を愛する日本人にこそ、もっと『本物の木』に触れてほしいのです」と、中井産業株式会社 代表取締役社長の尾﨑義明さんは話す。障子の自社ブランド「KITOTE」が生まれた背景もここにある。

「KITOTE」は天然木を使ったデザイン障子を通して、天然木の魅力を世界に発信している。障子は、組子という日本の伝統木工技術を使って作られ、釘を使わずに木部材を組み上げ、幾何学的な文様を生み出す細工だ。

一般的な障子の組子は、縦横の木部材を十字に組んで作られるが、「KITOTE」の組子はひと味違う。縦横・前後で組み合わせて二重構造にしたり、組子を框や桟と接合させずに途中で切る“切子”という技法を扱い、組子に抜け部分を演出したりする。和室にはモダンな印象を与え、洋室には雅で粋なニュアンスをもたらす。障子のイメージをがらっと変える自由なデザインがその特徴だ。

「KITOTE AIR SHOJI スリムライン ムーン」。一般的な8㎜よりも細い6㎜の組子で繊細さを実現

「KITOTE AIR SHOJI スリムライン ムーン」。一般的な8㎜よりも細い6㎜の組子で繊細さを実現

完成させる上で、天然木の表情を見極める力も大切な技術のひとつだ。木は乾燥すると痩せていき、縮んだり膨らんだりもする。0.1mmの精度で加工しなければ、美しく仕上がらない。経験に培われた細やかさが必要なのだ。

木材を見極める職人技がある、私たちだからできることなのです。

鑿を扱い、障子を組むためのホゾ加工を行う

鑿を扱い、障子を組むためのホゾ加工を行う

「AIR SHOJI」は、「KITOTE」の新商品だ。生まれたきっかけは、デザインインスパイア香港2019だった。多くの海外の人が障子の美しさに興味を示して集まったが、同時に、「なぜ枠がいるのか」「どうやって施工するのか」「部屋が狭くなる」と意見も殺到した。障子は、畳のある和室に取り付けられる扉なので、引き戸であることが前提。住宅に「引き戸」の文化がある国の数は、日本以外にはそう多くないからだ。香港インテリア雑誌の編集長の目にとまり、「KITOTE」の商品が紹介された。それは扉としてではなく、壁面照明としての紹介だった。「驚きましたね。障子はパネル。装飾の一部としての活用法には目から鱗でした」と尾﨑さんは笑う。

現地での声を生かし、ピクチャーレールの専門会社である荒川技研工業株式会社の協力を得て、吊れる障子パネルと壁に貼れる障子パネル「AIR SHOJI」が完成した。障子に光を通した時の柔らかな美しさをそのまま楽しめる。好きな長さ・大きさで吊って照明として、壁に貼り付けて幾何学模様の壁面アートとして、思い思いのインテリアに組み込める。障子=引き戸という固定概念が打ち砕かれた瞬間だった。

「AIR SHOJI」

「AIR SHOJI」

天然木を扱い、個性的で唯一無二の障子を作っていくために必要なこと。2014年に生まれた「KITOTE」が育っていく過程には、工場内での大きな改革があった。当時、中井産業株式会社は、職歴の長い職人の技術力をどう若手に引き継ぐかという問題を抱えていた。「見て盗め」の世界を逸脱し、木製建具の製造技術を次の世代に残していくためには、ある程度の組織化が必要だと尾﨑さんは判断。製造部長の上田晃宏さんと共に、職人技術の数値化・マニュアル化に取り組んだのだ。

半年を要したマニュアル作成。それ以後、効率化できる部分は機械が担い、人間ならではの細かい気配りが必要な技術に関しては、職人が行うという分別がされた。これを期に若手職人の育成が進み、製品作りにおいての意識改革も行われていった。
改革においては、社内での反発やさまざまな弊害もあったが、結果と成果を積み上げることで、2015年にはグッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を取得した。いち町工場が、いまや一目置かれる天然木の木工メーカーと呼ばれるようになっている。

一枚一枚職人の手で障子紙を貼り付ける

一枚一枚職人の手で障子紙を貼り付ける

近年では、環境保全を推進する活動「木づかい運動」にも加盟している。日本の天然木を積極的に利用することで、日本の森林を活性化させようとするものだ。職人たちも研修の一環で山を訪れた。普段扱っている木を目の前にして、彼らの意識も大きく変わったという。「『経年美化』という言葉を大切にしています。長い年月を経て、ものがより良く変化していくという意味。木のものづくりに励むことで、人も木も豊かに育てて行きたい。そのための1つのパーツとして、自分たちの製品が活用されると嬉しいです」

失われつつある職人技と、日本の天然木を守る。中井産業株式会社のこれからを見守りたい。

匠の技術力をマニュアル化することで、第一線で活躍する若手社員も多い

匠の技術力をマニュアル化することで、第一線で活躍する若手社員も多い

WRITING
小倉 ちあき / 地域・アート・暮らしの領域で執筆。https://lit.link/kurumuruchiiii
PHOTOGRAPH
HAGA MOMO / 写真家。舞台に立つ人や工場で働く人々の生き様、自然の美しさに鋭く迫る。
DESIGN
山中 崇寛 / Chillout Creative Space
DIRECTION
宮本 尚幸 / 日本建築材料協会デザイン委員会
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